Riah (_tehriah) wrote,
Riah
_tehriah

Another Note Page 00 : HOW TO USE IT (Japanese)


(in Japanese, with page numbers, word for word)




008
ビヨンド・スデイが第三殺人を犯した際、彼は一つの実験的試みを行っていた。それは、内臓を破損させない形での内出血で、果たして人間を絶命させうるかどうかという試みだった。具休的には、薬品で意識失わせた被害者を、身動きの取れない状態に拘束した上で、その左腕を、皮膚を破らないように配慮しながら徹底的に殴打し続けるという試みーーーつまり左腕の内出血による出血多量死を目論んだわけだが、しかしこの試みは、残念ながら失敗に終わった。その左腕が撃血し、全面が赤紫色になったところで、被害者は死ななかった。びくびくと、奇妙な痙攣をした程度で、命には全く別状はないようだった。腕一本分を満たす血液が失われれば生命は停止するはずだという読みがあったのだが、どうやらそれは甘い読みだったようだ。もっとも、そんな殺し方自体は、ビヨンド・バースデイにとって比較的重要度の低い遊び、余興であって、まさしくただの実験的試ひでしかなかったので、成功しようが失敗しようが、どうでもいいと言えばどうでもよかった。ビヨンド・バースデイは軽く肩を竦めてから、ナイフを取り出してーーーいや。いや、いや、いや。

009
こんな語り方はやめよう、こんな語り口はやめよう、こんな建前的な記述のとり方で、最後の一行まで文章が持つわけがない。頑張ったこかでどこかで嫌気が差し、投げ出してしまうのが関の山だ。歴史上もっとも有名な狂言回し、ホールデン・コーンフィールド風に言うならば、ビヨンド・バースデイの軌跡や思考を追うことがこの場合の僕の目的のそぐうわけではないし(たとえ僕が立場上、いささか以上の割合で彼に共惑を覚えているとしてもだ)、運筆絶妙の文体で彼の手による一連の殺人事件を語ったところで、そんなことでこの手記が記録としての価値を高めるわけではない。これは報告でもなければ小説でもないのだ。そして、大体、仮にそんなことになったところで、僕は嬉しくもなんともない。紋切り型のありきたりな言い振りで申し訳ない限りだが、こういった文章がこうして人目に触れている時点で、恐らく僕は生きてはいないだろうから。

世紀の名探偵Lと猟奇の殺人鬼キラとの対決の結果は、この手記を読んでいるような人間にとっては、強いて言うまでもないことだ。道具立てがギロチンから多少ばかりファンタジックにアレンジされたというだけのことで、結局のところ単なる恐怖政治を敷こうとした殺人鬼の思想は馬鹿馬鹿しいほど幼稚極まりないものだったが、それに賛同する程度には、勝負の神様も幼稚な生き物だったのかもしれない。密告と冤罪に満ちた殺伐とした社会をこそ、神様はお望みだったのかもしれない。ひょっとするとそれは、神と死神との違いを、ネガティブな意味で考えさせられるエピソードなのかもしれないけれど、少なくとも僕はそんなことを考えるつもりはない。

キラなんてどうでもいい。

僕にとって重要なのはあくまでLだ。

L。

その溢れんばかりの才能から鑑みれば、あまりにも早過ぎる、理不尽な死を迎えてしまった、世紀の名探偵L。公式の記録に残っているだけで三千五百を超える難事件を解決し、刑務所に狎し込んだ犯人の数はその三倍を数える。いち個人でありながら世界中の捜査機関を自由自在に動かすことができるだけの圧倒的権力を持ち、ありとあらゆる称賛の称号を惜しみなく冠され、しかしそれでいて人前には決して姿を現さないーーー僕はそんな偉大なる彼の言葉を、なるたけ正確な形で、誰かに伝えたい

010
と思う。誰かに遺したいと思う。一度はLを継ぐ者と言われたことがある者の役目として、継ぐことはできなくとも、伝え、遺すことができるのなら。

だからこれはLの伝説であり、僕の遺書だ。僕ではない者から、世界ではない場所に向けられたダイイングメッセージだ。実質的な可能性としては、あの頭でっかちのニアの野郎が、この手記を一番最初に発見するケースがもっとも考えられるのだろうけれど、もしそうだったとしても、今すぐこの文章を破り捨てて焼き払えとは言うまい。あいつの知らないLを僕が知っていたことを、あいつが痛惑してくれれば、それでいいだろう。あるいは殺人鬼キラの手に、この文章が渡ることもあるのかもしれないのだけれど、しかし、それこそ僕の望むところだ。この文章が、非現実的な殺人ノートの能力と頭の悪い死神の手助けに、終始おんぶにだっこしているらしい調子づいた殺人鬼にとって、本来自分はLの足下にも及ばない塵芥だったということを知るきっかけになるとすれば、それは十分に畳と言うべきだ。

僕は、LにLとして会ったことのある数少ない人間の内の一人だ。いつ、どんなタイミングでLと会ったのかは、僕の人生におけるたった一つの大事な記憶として、ここで明かすつもりはないのだが、僕はその際、Lから、三つの手柄話を聞かされたーーービヨンド・バースデイにまつわるエピソードは、その中も一つである。こんなもって回った言い方をせず、ロサンゼルスBB連続殺人事件と言えば、それなりに聞き覚えのある者も多いのではないだろうか。その件にLがーーーと言うより、僕が十五歳まで育ったワイミーズハウスが、深く関わっていたことは、さすがに明らかにされてはいないのだが、つまりそういうことである。十人以上の被害者、あるいは百万ドル以上の被害額が出ない事件には原則として関与しないと言われているLが、三人だか四人だかの命が失われた程度のあの事件に、遅ればせながらも積極的に参戦した理由がそこにある。詳しいことは後述するが、そういう意味ではLにとっても、あるいは僕にとっても、それに、ひょっとしたらキラにとってさえも、あの事件、ロサンゼルスBB連続殺人事件は、何らかの分水嶺に位置づけられる、記念碑的な出来事であったのかもしれない。

何故なら。

あれこそ、Lが初めて竜崎と名乗った事件なのだから。

011
それでは、ビヨンド・バースデイが第三の人を何を思いながらどういう風に犯したかなんて、僕にとっては全く興味がない、つまらない描写は丸ごとすっ飛ばすことにして、勿論、第二の殺人、第一の殺人と、殺しの描写を遡るようなこともせず、時計の針を翌日の早明に、つまり、世紀の名探偵Lが、事件の捜査に乗り出した、その光り輝く瞬間へと、アジャストしようーーーああ、そうだ、危うく忘れるところだった。頭でっかちのニアの野郎でも調子づいた殺人鬼でもない第三者としての人間が、この文章を読んでいる可能性を、形式上だけであってもとりあえずは考慮することにして、僕はこの前置きの最後に、ナレーター兼ナビゲーター、ストーリーテラーとしての署名を残しておかねばならないのだった。もっとも、その二人以外にとっては、そんなこと、逆にどうでもいいことかもしれないがーーー僕は旧世界のかませ犬、犬死のベストドレッサー、ミハエル、ケール。メロと名乗り、そう呼ばせていたこともあったが、それはもう、昔の話だ。

いい思い出で、悪い夢だ。


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